2018年GW直前の涸沢テント泊ー北穂高岳南陵(2)
最終更新日 2023-12-052018.4.21-22 残雪期の北穂高岳南陵を歩いてきました。
体調を見ながら、上高地から小屋明け前の涸沢でのテント泊までを書きましたが、いよいよ今回は北穂高岳への登頂を目指すべく、残雪期の北穂高岳にアタックします。その日の早朝まで、どのルートで行くべきか色々と思案していましたが、朝起きるのと同時に、南陵経由で登ってみようと思っていました。
目次【お好きなところから】
北穂高岳残雪期の北穂沢ルートではなく南陵ルートで
残雪のあるこの時期の北穂高岳への登頂ルートは夏には歩かない北穂沢の直登という、冬期・残雪期限定のルート。しかし、今回は夏道のある南陵ルートを選びました。決して当日早朝に北穂沢ルートで滑落死亡事故が起きたからではなく、より難易度の高くなる南陵ルートに挑戦してみたいという単純な願いからでした。そして今回の山行の最大の目標でした。
しかし、無理をするつもりはなく、前日感じた体の異変が続いているようであれば、潔く諦めるつもりでした。
今回のルートを地図でおさらいしてみたいと思います。
途中までは同じコースを辿りながら、途中南陵の岩尾根沿いについた雪の斜面に取り付き、雪と岩のミックスルートをpeakまで直登というルート(赤)になります。さてさてどうなることか。
南陵をと思ったのは、月曜日を有給で取っていたからというのも大きかったかもしれません。登るのは日曜日、じっくり登って降りてきても、翌日もう一日あるという心の余裕。これは大事だったろうと思います。山は決して逃げないけれど、やっぱりその時の自分の実力と、目の前に絶好の条件が広がっているとしたら、この機を逃したくないと思うものなんだろうと思います。山は逃げないけれど、自分はどんどん登れなくなっていくので・・・。
午前6時、遅めのテント出発
モンベルのリゾッタを半分だけ食べ、行動食をポケットに入れていざ出発。急登続きになるため、ヘルメット、アイゼン、ピッケルは初めから装着。
前穂方面から朝日が眩しく照り付けていました。
無事にまたテントに戻ってこれますよにと山にお願いして。
涸沢小屋方面にテクテクと歩いていくと、すぐにデブリ帯にぶつかりました。デブリ帯を横目に見ながらまだ緩やかな斜面を直登開始です。身体は重くなく、普通によく動きます。前日のしんどさを飲み込んで、身体が慣れてきたのでしょうか。
それにしても雲一つない晴天に恵まれました。その分雪が腐るのが早そうです。早出とはいかなかっただけに、少しずつペースを上げて進みます。
デブリの中を直登する
前日も暑い一日だっただけに、北穂沢では「ズズズズウ・・・」という雪崩の音がひっきりなしに。一面デブリ後、デブリの中を登っていくというような感じでしたね。GW前の北穂沢ルート、まだ登っている人が少ないだけに、踏み後もハッキリなく、あっても締まっていないので一歩一歩が歩きにくい。埋まったり、あると思ったステップが崩壊したり。
デブリの中を行く。それにしてもこの日は日差しが強く、気温も大変上がったと思います。2リットルをハイドレーションに入れて背負ってはいるものの、果たしてこのままで持つのだろうかと思わざるを得ない暑さでした。
暫く登った地点から振り返ってみると、涸沢には翌週のGWでは考えられないほどのテントの数。7張りだったかと思います。ずっと直登なだけに、想像よりも早いペースで進んでいます。
左手には奥穂とザイテングラート、この時期の一般コースとなる小豆沢もよく見えていました。急な登りとはいえ、この辺りまではまだまだ余裕ですね。
ようやく涸沢小屋の上部付近まで到着しました。
先行していた2名のうち1名がどうやら引き返してくるようです。斜面をバックステップで慎重に下りてきていました。この方も南陵取り付きを考えて登っていたようです。何かトラブルがあったのか・・・すれ違うまでは分からないので、ひたすらモクモクと登るのみです。
振り返って前穂のギザギザしたその姿は、まるでゴジラの背中のようです。
斜面越しに見る奥穂高岳の姿も近くなってきました。前穂も奥穂も迫力があって美しくて、次はこちらも残雪期に登りたいですね。
下山してくる登山者の方と言葉を交わしました。どうも足が攣ってしまい諦めるとのこと。「南陵行くんですか?」と聞かれ、「はい、その予定です」などと答えてしまい、もうやってやる!という気持ちが勝ることになりました。この後、もう一人の先行者の方も登頂を諦め戻って行きました。
南陵取り付き点、急斜面で緊張を強いられる
北穂沢からルートを少しずつ南陵側に取り、南陵の下側を巻きながら取り付き点に近づいていきます。写真ではあまりわかりませんが、結構な急斜面で、さすがに息が切れました。
この下側を左手に巻きならが南陵の尾根に出ます。しかし、ここが一つ目の関門でした。
振り返って。ここからが急になります。足を滑らせたら止まるのかな・・・と不安になります。近づくと、この木の下側を通り、尾根に登りあげます。かなりの急斜面で、一歩踏み外したら何百メートルも落ちるであろうという緊張を強いられる場面でした。雪質もよくなく、ステップを一つ一つ作りながら、ピッケルでしっかり確保しながら時間をかけて進みます。
ようやく無事に通過し、尾根に登りあげた時にはホッとしました。ただ、もうここを戻ることはほぼ出来ないので、最後まで南陵を登り切るしかありません。まだまだ緊張が続きます。
北穂高岳南陵の広い尾根を直登する
取り付き点を過ぎると、右に90℃方向を転換します。広めの尾根に伸びる先行者の踏み後が一つの道しるべです。ここも写真で見ると緩やかに見えますが、かなりの急斜面でした。
暑さのせいで雪はゆるみ、アイゼンがしっかり効きません。ズリズリと滑りながらも一歩一歩少しずつ上へ。時間だけがかかり、なかなか前に進みませんが、時間とともに雪が悪くなりそうだったので、出来るだけ早く標高を上げることに集中して登りました。
南陵の雪は随分消えており、時折石やハイマツが姿を現します。それらを休憩ポイントにしながら休息をとります。目の前に大きな岩の塊が見えてきましたが、これはピークではありません。
ここまで来ると奥穂高岳山荘もハッキリと見ることが出来ます。小屋明け前の作業が急ピッチで進められているようで、除雪車が動いているのも見えました。
360℃の大絶景です。東陵にはクラックが至る所に入っており、危なそうでした。この日、東陵からの下山ということも考えていたのですが、これを見て諦めました。
周りの景色を眺めていると、急にヘリコプターがどんどん近づいてきます。しばらく辺りを旋回ていたので、どうも遭難者が出たようだと気が付きました。時間は8時30分頃だったかと思います。私が休憩していた南陵の尾根のちょうど真下あたりの北穂沢沿いでホバリングを開始し、しばらく後に収容されていきました。
それでもこの時点では亡くなったということはわからずでしたから、まだ気持ちに余裕がありました。後から知ったことが自分には幸いしたかもしれません。改めて亡くなられた方のご冥福をお祈りしたします。山はこんなに美しいのに、人の命を奪う場所にもなるのだと、写真を見ながら改めて肝に銘じています。
気を取り直し、また登ります。ようやく右手奥に北穂高岳北峰のピークが見えてきました。急登が少しだけ緩みます。
松濤のコルもハッキリと見えてきました。松濤のコルに向かって斜面をトラバースしながら北峰方面へ進むことも出来ますが、このまま南陵を登り詰めることにしました。
北穂高岳南峰到達
最後の斜面を登ると、目の前には昨年歩いた槍ヶ岳までの大絶景が目の前に飛び込んできました。3106m北穂高岳南峰ピーク到着です。お疲れさまでした。もちろん誰もいないのと、あまり状態のよくない場所だったたので、自分のピッケルだけ入れて記念撮影です。
絶景です。奥穂から前穂にかけての吊尾根が綺麗です。今年は奥穂から北穂もちゃんとつないで歩いてみたいなと思っています。
さあ、下山も慎重に行わないといけませんし、あまり時間をかけていられません。まずは松濤岩を巻きながら、コルのへ下降するために、ナイフリッジ状になった稜線を通過します。風があると危険だったかもしれません。踏み後もあまりないので、慎重に進みました。
岩と雪の細い稜線を慎重に確実に下りながら、松濤岩のコルの上に到着。そこから10mほどほぼ垂直の氷の壁を降下します。後ろ向きになり、アイゼンを氷に蹴りこみ、ピッケルで出来るだけ確保しながら少しずつ少しずつ下りていきました。途中大きめの落石を落としてしまい危なかったです。
右に見える大きな岩が松濤岩。この左手を通過してきました。この日一番緊張した場所でした。コルでしばらく座って休憩です。休憩していると北穂沢から登ってきた方と出会い、先ほどの遭難の件を詳しく聞くことになりました。血の気が引く思いでしたね。
北穂沢を下山
東陵に向かった二人組もありましたが、雪が悪くて撤退されていました。ここは素直に北穂沢を下山することにします。雪はゆるんできていますが、アイゼンがほとんど役にたたず、ズルズルと身体が持っていかれます。3度ほど10m未満滑り落ち、そのつどピッケルで停止しながら下りました。雪が踏み固められていないので、この時期の北穂沢は登りも下りもまだ大変ですね。GWあたりになると沢山の登山者でルートがしっかり出来るのでしょう。
少しずつ近づいてくる涸沢を目標にしながら慎重に。途中収容現場横も通り、手を合わせてきました。
1時間以上かかって無事に下山。無事といいますが、最後は2リットルのハイドレーションの水が無くなり、雪をかじりながら下りてきました。本当に暑かった。
振り返って全ルートが一望に。自分としてはチャレンジの山行でしたが、色々な経験を積むことが出来、とても良かったと思います。北アルプスの残雪期は八ヶ岳などとはまるっきり違います。雪の質に慣れないと危険はすぐそこにあるとも思いました。今シーズンもう一度と思っているのですが、時間が取れるかどうか・・・。
撤収、下山はいつものごとく過酷なタイムトライアルになりました
荷物を詰め込み、テントを畳んで涸沢を後にしたのはすでに1時近くでした。最終のバスまで4時間を切っています。半分諦め、タクシーを使うことになるかなと思いながらでしたが、気を付けながらペースを上げて下山します。
すぐにルート開拓をする遭対協や山小屋の一団と出会い、前日には無かったルートで下山です。若干遠回りになりますが、安全優先です。
かかったばかりの本谷橋を通ります。大変な作業、お疲れ様です。ありがとうございます。
すっかり雪の消えた明神。こちらも忙しそうでした。明神に到着したのはすでに4時半頃。後20分ほど・・・さすがに諦めてペースを落としました。
お疲れ様でした。無事に河童橋に戻ってきました。午後5時を回ったぐらいだったと思います。タクシーを捕まえようとバスターミナルまで行くと、新島々行きバスの最終が入ってきました。忘れていました!新島々も沢渡を経由します。新島々に向かう乗客が少なければ乗ってもらっていいですよと言われ、無事に乗車。
ラッキーでした。4000円ほど節約できましたね(笑)
沢渡に到着した後は平湯温泉で疲れを取り、名古屋には10時頃に到着したと思います。二日間、歩かせてくれた家族に感謝です。ありがとう。
ということで、2018年GW直前の北アルプス北穂高岳でした。
続いて、GW前半、後半の山梨、長野へ続きます。
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