槍・穂高テント泊縦走③3000mの稜線~大キレットを歩く

大キレット長谷川ピーク
槍ヶ岳
Pocket

2017年9月末、初秋の北アルプス

槍ヶ岳から北穂高岳へのテント泊縦走。今日は核心部の大キレットを歩く。

大キレット

日本屈指の岩稜ルート

大キレット

北穂高岳小屋直下で歩いて来た道を振りかえる

上高地から槍ヶ岳、大喰岳、中岳、南岳、北穂高岳という3000m峰5つを一気に歩く今回のルート。

特に2日目のこの日は国内屈指の岩稜ルート歩き「大キレット」越えとなる。

いつかは歩きたいと願っていたルートだけに、緊張しつつも楽しみな一日が始まった。

日本三大キレットの一つ「大キレット」

この日のメインは大キレット越え。キレットとは日常用語では聞く機会がない言葉だが、れっきとした日本語、山用語だ。

山と山をつなぐ「稜線」。その稜線がⅤ字状に深く切れ落ちた地点のことをキレットといい、日本語では「切戸」と書く。当然急傾斜の下りと登りを繰り返すことになり、登山の難易度は高くなる。今回歩く大キレットの他に、八峰キレット、不帰キレットの三つを日本三大キレットと呼んだりする。

大キレットは、長野県の南岳と北穂高岳の間にあり、ルート上には長谷川ピークや飛騨泣きといった難所が点在する。国内の一般登山ルートとしては最高難度のルートの一つと言われる。

常念岳や蝶ケ岳から大キレットはよく見える。いつかはあのルートを歩きたいと願っていたルートに自分が挑戦していることが不思議だった。

コースタイムは以下の通り。

  • 2日目 合計21.7km 13時間40分(休憩含めず)
    槍ヶ岳テン場→大喰岳→中岳→2971m地点(160分)→南岳→南岳小屋(20分)→長谷川ピーク(80分)→飛騨泣き→北穂高小屋(130分)→涸沢(120分)→横尾(120分)→徳沢(70分)→明神(60分)→上高地バスターミナル(60分)

事故が多発する地点だけに注意して慎重に進みつつも、上高地バスターミナルには夕方の5時前の最終バスまでに到着しなければいけないため、ペースを落とさずに歩きとおさなければいけない。本当なら北穂高岳でもう一泊したかった。それはいつか必ず。

真っ暗な槍ヶ岳のテン場を午前4時半に出発~大喰岳、中岳、南岳へ

本当は3時過ぎには出たかった。が、あまりに真っ暗過ぎて止めた。

カミナドーム

テントの中でしっかり食事を摂り、ルートを再確認。外は若干風があるものの微風。天候も問題なし。大キレットは雨や風で難易度が一気に増してしまうため無理は禁物と思っていたが、絶好のコンデションで向かうことが出来そうだ。

テント泊装備を背負って単独行で歩くのには若干不安があったものの、荷物を極力絞ってきた。ただし、マットはニーモのテンサー20Sからエクスペドのダウンマットに切り替えた。9月末の槍ヶ岳、氷点下になるまでではなかったものの、やはりそれなりに冷え込んだ。ダウンマットのおかげで温かくしっかり眠ることが出来た。
このマットは山でもキャンプでも本当に重宝している。買って良かったと思える道具の一つだ。

木の標識を槍ヶ岳山荘の受付前にそっと戻し出発。午前4時半を少し過ぎていた。

大キレット

ヘッドライトの光だけが頼り。数名の先行者がいるらしいが距離はかなりある。

槍ヶ岳山荘からテン場の中央を下って行き、ペンキに従ってジグザグとザレた道を進む。しばらく行くとまず初めの3000m峰となる大喰岳(3101m)への鞍部、飛騨乗越に到着する。とにかく真っ暗なのでルートを見誤らないように進む。風が冷たい。体が温まっていないから特に寒さが堪える。

鞍部からは大喰岳への登り返しとなる。登ること10分~15分ほどだろうか、広めの山頂付近だろうという場所には到着するも、山頂がどこだか暗くてわからない。後からわかったが、大喰岳の山頂はルートから少し外れた場所にあったようだ。

大キレット

この写真はすでに山頂部を通り過ぎてしまっていると思う。広い山頂部から、次の3000m峰となる中岳へ向けて一旦下る。このあたりはなだらかなゆったりした稜線歩き。もう少し季節が早かったり、時間設定に余裕があれば絶景を堪能しながらの歩きとなっただろう。

それにしても空のグラデーションが綺麗だ。

大キレット

わかりやすい道を下って行くと鞍部に到着し、そこから目の前に迫ってくる中岳へ登り返す。この頃から視界が効くようになってくる。

大キレット

振りかえると槍ヶ岳がチョコンと見える。槍ヶ岳でご来光を待つのか、穂先に取り付く登山者の明かりが見える。

大キレット

ゴロゴロした岩が多くなってくれば中岳山頂はもう目の前だ。

大キレット

ハシゴを二つ登り切ると山頂部に到着する。

大キレット

中岳の山頂標識はすぐにわかった。

大キレット

午前5時18分、中岳(3084m)。
槍ヶ岳を出てから50分。まあまあのペースだと思う。

大キレット

振りかえると槍ヶ岳が綺麗に見えた。もう少しで日の出だ。

大キレット

中岳山頂部からは次の目的地となる南岳までの雄大な稜線が一望出来る。そして大キレットの核心部を抜けた先にある北穂高岳も。

大キレット

中岳から一旦下り、南岳への尾根歩きの途中で日の出を迎えた。5時40分。タイムリミットまであと11時間。

大キレット

朝日に照らされた稜線が綺麗だ。3000m峰をつなぐ日本の屋根の稜線歩き。自分が今ここにいることが幸せ。

大キレット

途中一か所だけ切れ落ちた岩壁をトラバース気味に登る場面がある。ここでストックを仕舞った。

大キレット

大キレット

気持ちがいい稜線歩きが続く。

南岳

午前6時23分、南岳(3032.9m)。槍ヶ岳から1時間50分。コースタイムは2時間50分ほどだからいいペースをキープしている。

大キレット

南岳山頂部からはザレた道をジグザグに下りていき、すぐに南岳小屋に到着する。ここで一気に登山者が増える。大キレットを越える時、南岳小屋やテン場を起点とした方が間違いなく楽だと思う。テン場からは笠ヶ岳が正面に見えて気持ちも良さそうだった。

ここからは西側の南岳新道を通り槍平小屋へ抜けるルートもある。逆に言うと、ここから先はエスケープルートもない。大キレットを越えるしかなくなる最後の分岐点ということになる。

南岳小屋の前で荷物を下ろししばし休憩する。行動食を口に詰め込んで周りの登山者の様子を観察する。みな大キレット越えを楽しみにしている様子が伺える。

10分ほど休憩し、靴紐を結びなおしてさあ出発しよう。

大キレットを越える

大キレット

南岳小屋から目の前の丘陵状の斜面を少し上がり、その先にある写真のような地点からキレット鞍部に向けて下っていく。写真のように細かい岩屑が足場の上に積もっており、若干滑りやすい。注意すれば特に問題はないが気を付けて下っていく。ちょうど先行するペアがいたので着いていくことにした。

大キレット

ザレた岩場の下りが続く、目の前には目指す北穂高岳小屋、滝谷の大岩壁が大きく迫ってくる。迫力だ。

大キレット

左手に進路を変えながら、大きな岩を乗り越えながら鎖などのついた岩場歩きでさらに降下していく。このあたりで前のペアをパスさせてもらった。

大キレット

鎖の着いた急な下降。特に鎖に頼らなくても問題なく降りていける。

大キレット

振り返るとほとんど垂直なように感じる斜面。落石にも注意しながらすぐに先に進む。

大キレット

大キレット

長めの梯子を下りて一気に鞍部に近づく。正直怖さというよりもワクワクした感覚の方が勝つ。楽しい。

大キレット

最低鞍部は気が付かずに通り過ぎてしまったと思う。何組かをパスしながら先を急ぐ。左手にハイマツが生い茂る稜線を細かいアップダウンを繰り返しながら進む。切り立っているように見えるが案外道幅は広く、軽快に進むことが出来る。ハイマツの茂る稜線の先、チョコンと空へ飛び出している地点が難所と呼ばれる長谷川ピークだろう。

最低鞍部を越えて長谷川ピークへ

振り返ると今降りてきた大岩壁が聳え立っている。尖っているあたりを獅子鼻というようだ。

大キレット

第一の難所「長谷川ピーク」は以前その地点から滑落した大学生の名前から付けられているという。前日に槍ヶ岳で北村登山さんに「ピークは登り切らないと気が付かないような場所にある」と聞いた。ここまで来て長谷川ピークを踏まないなどという失態をしたくないので、どこだどこだと思いながらひたすらに急な斜面を登っていく。

大キレット

空が青い。足場は安定した登り。高度感はあまりない。

大キレット

ふと前を見ると岩の上で若い女性の登山者二人が休憩している。近づくと「お疲れさまです!」と言われ、よく見ると「Hピーク」のマーキングが目に飛び込んできた。ここが長谷川ピーク。正直言って拍子抜けするような気持だった。というのは、長谷川ピークの核心部はこの先にあるからだろう。そのことは後でわかる。

南岳からですか?との問いに、槍からですと答えると速いですねと驚かれたりしたが、この先も長いのでそれでも時間はギリギリという状況だと伝えた。その女性二人組に記念に写真を撮ってもらう。

大キレット

長谷川ピーク到達。後ろには笠ヶ岳。長谷川ピークの文字の上に立つとかはとてもじゃないが出来なかった。
この日は終始finetrackのフロウラップを着ていた。寒さからも太陽光からもしっかり身体を守ってもらえ、擦れにも強かった。信頼出来る一着だと思う。

大キレット長谷川ピーク

とお互いの安全山行を言い交し、2人は南岳方面へ降りて行った。写真で見ていても思うが、長谷川ピークへの登りも北穂高岳側から下りに使う方が難易度が高いと思う。

大キレット

さあ長谷川ピークの本当の核心部へ進む。先ほどのマークの先には写真のような切り立った岩場のナイフリッジが存在する。
ここを写真左側から先へ進み、途中で右側へ乗り越して、さらに鎖を伝って滑りやすい岩場をほぼ垂直に降下していく。一歩間違えば大事故になる。気を引き締めて進んだ。

大キレット

手前に足がある。足元は常にこんな感じで落ちている。雨が降っていて滑りやすかったらとても恐ろしいだろう。

大キレット

左側の鎖を頼りながら進み、右下に見えている細い道まで一気に降下した。

大キレット

大キレット

大キレット

長谷川ピークを抜けて振り返る。ナイフリッジの上を人が歩いている。ここは登りとして通過する方が難易度は下がりそうだ。と言ってもどちらをとっても緊張を強いられれる難所だと思った。

大キレット

長谷川ピークを越えても次々と垂直の壁を鎖や足場をつたって降りていく。もう麻痺してくる。

大キレット

鎖を降り、角材で作られた足場を渡り、さらに少し降りると「A沢のコル」に到着する。

大キレット

唯一の休憩ポイントと言われている。この日は先行する若い二人組が休憩していた。
落石の被害を受けなさそうな場所へ腰を下ろし、ホッと一息ついた。

コルからの垂直の登り、飛騨泣きへ

大キレット

実は、このコルからの登りが大キレットの中で一番緊張した。ほぼ垂直に感じるような切り立った岩場を狭い足場を頼りに上へ上へと登っていく。狭い足場には岩屑がたまっていてスリップしやすい。スリップしやすい場所に足を乗せて体を持ち上げる時にはとても緊張した。その連続が延々と続く。鎖もほとんどなく、岩の凹凸に指をかけて三点支持を守りながら安全を確保する。

大キレット

少し登ったところから見下ろすとこんな感じ。落ちたら命はないかなと思った。

大キレットその先に「飛騨泣き」が現れる。岩には何本かのステップが打ち付けられており、鎖を持ちながら体を持ち上げる。ここは特に問題はない。ペンキに沿ってしっかり三点支持を守って登れば垂直の壁はあっという間に通過できる。ただし、途中での行き介いはほとんど出来ないので順番に。

登り切った後は稜線に出る。

大キレット

岩場にはまだ新しい金属製のステップが付けられている。これがなかったら難所だと思うが、しっかり鎖を持ちながら足場を慎重に進めば問題はない。

大キレット

この先も案外厄介な地点だった。岩場の急登になるが、足場がもろく崩れやすい。ザレた小さな岩は先行者の少しの動きでゴロゴロと転がってくる。距離を取りながら進んだが、それでも何度か体の近くを落石が通過した。

大キレット

鎖を使いながらザレた斜面を登り切ると、落ち着いた道に出る。もう北穂高岳は目の前だ。振り返ると早朝から歩いて来た道が一望できる。あの尖ったところから歩いてきた。

北穂まであと200ⅿのマークを見ながら最後の急登を行く。北穂高岳小屋は目の前にあるのに、ここがとても辛かった。さすがに疲れて体が重い。最後のハシゴや鎖、鉄杭などを登り切るととうとう北穂高岳小屋前のテラス脇に到着する。

大キレット

到着した。ようやく到着した。大キレットを越えてここまで辿り着いたという安ど感で一杯になる。

大キレット

ビールで一杯といきたいところだが、まだ先が長いのでCCレモンで乾杯!お疲れさまでした!

大キレット

小さいけれどもとても小ぎれいな小屋だった。記念に手ぬぐいを購入し、トイレを済ませて進む。本音を言えばここでもう一泊したかった。

槍穂縦走達成!思わず拳を突き上げる

大キレット

小屋の裏手からすぐに北穂高岳山頂標識がある。
他の登山者の方に撮ってもらう。自然と両腕ガッツポーズとなった。

大キレット

目の前にはこんな景色が広がっていた。今日歩いた道が全て見える。今までに登り歩いたどの山、どの道よりも達成感があった。本当にいい日に登れたことに感謝。

北穂高岳から涸沢への下りも気を抜くわけにはいかない。眼下に小さくテントが見える。

大キレット

大キレット

大キレット

大キレット

途中の紅葉が綺麗だった。約1時間ほどで涸沢まで駆け下りた。

涸沢小屋にたどり着き、何はともあれ食事を注文。肉じゃが、おでん、ソフトクリーム。あっという間に平らげた。

大キレット

大キレット

涸沢のテン場を通り、穂高の峰々を最後に振り返った。ナナカマドの実が赤く色づき始めていた。

次は北穂から涸沢岳を経由して奥穂、前穂を繋げたい。そんなことを思いながら上高地への長い下山路に歩を進めた。

二日間で40km超の長い道のり。槍ヶ岳での出会い、大キレットでのドキドキ。山はやっぱり楽しい、そんなことを思いながら、上高地バスターミナル発の最終バスに乗って帰路に着いた。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でみーパパをフォローしよう!

Pocket

ピックアップ記事

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。

ブログの読者になる

メールアドレスを記入して購読すれば、更新をメールで受信できます。

1,285人の購読者に加わりましょう