最終更新日 2023-12-05
標高3090m 前穂高岳山頂にて。
後ろに遠く見えるのは槍ヶ岳。
日本アルプス屈指の急登
重太郎新道と西穂高岳
夜明け前から降り続いた雨も上がり、絶好の登山日和になったことに感謝しながら歩いた
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すでに季節は秋、山は初冬の様相となっていると思いますが、ようやく8月末の前穂高~奥穂高登山の記録を上げることに。
季節外れではあるけれど、それはそれということで書き残しておこうと思う。
上高地から見える「あの山」の稜線「吊尾根」を歩く
「上高地」は言わずと知れた日本屈指の山岳リゾート。一度は訪れたいと願う人は多い。
一度訪れた人であれば、梓川の澄み切った美しさと、眼前に広がる山並みに目を奪われ、いつまでもその風景が焼き付くことは間違いないだろう。
今回歩くのは、河童橋から梓川の奥に見える白い尾根の山、その美しくカーブを描くような稜線のルートである。
そのルートを誰が名付けたか「吊尾根」という。吊尾根とは二つ以上のピークを結んで吊橋がかかったようなカーブを描く稜線のことを言うが、その中でも最も有名なのがこの前穂高岳から奥穂高岳を結ぶルートだろう。
今年の夏の一つの目標だったけれど、どうにも天候に恵まれず、ようやく夏の終わりの8月末にテントを背負って歩くことが出来た。8月末といえば下界では残暑がまだ厳しい時期ではあるけれど、すでに3000m級の稜線には秋の風が吹き渡っていた。
登山計画概要
2017年8月26‐27日 上高地から前穂高岳、吊尾根を通って奥穂高岳という穂高連峰の岩稜歩きの魅力の詰まった今回のコース。テント泊装備を背負っての単独登山を計画した。
- 1日目 7.8km-8時間40分(休憩含まず)
上高地バスターミナル→岳沢小屋(150分)→重太郎新道を紀美子平へ(180分)→前穂高岳ピストン(50分)→紀美子平→奥穂高岳(110分)→穂高岳山荘(30分)
- 17.7km-8時間(休憩含まず)
穂高岳山荘→涸沢岳ピストン(35分)→ザイテングラート→涸沢(130分)→Sガレ(30分)→横尾(90分)→徳澤(70分)→明神(60分)→上高地バスターミナル(60分)
総歩行距離25.5km 合計歩行予定時間16時間40分(休憩含まず)
最低標高地点 上高地バスターミナル 1508m
最高標高地点 奥穂高岳(日本第三位)3175m
初日の歩行距離は長くないものの、上高地から一気に標高を1500m以上上げることになり、さらにそのルートには至るところに鎖やハシゴがかけられた急登続きとなる。毎年死傷者も出るルートであり気が抜けない。特にテント泊装備を背負っての歩きとなるだけに、バランスを崩さないように注意しなければならない。
初日のルート上には岳沢小屋が営業しており、初日に岳沢で小屋迫、テント泊などをして2泊3日で歩くという行程を組めばより安全に歩くことが出来るものの、日程の都合上1泊2日で計画せざるをえなかった。
2日目に穂高岳山荘から涸沢岳、北穂高岳を結ぶというルートも検討したものの、今回については詰め込みすぎず、過去に歩いた経験のあるザイテングラートで涸沢へ下り、上高地へ周回するというルートとした。
2015.10.08穂高岳wikiより
穂高岳は奥穂高岳、涸沢岳、北穂高岳、前穂高岳、西穂高岳、明神岳らからなる穂高連峰の総称
奥穂高岳は、中部山岳国立公園の飛騨山脈(北アルプス)にある標高3,190mの山。日本第三位の高峰。日本百名山、新日本百名山...
もう一つの選択肢として岳沢小屋から天狗のコルへ上がり、一般登山道とはされていないジャンダルムを歩くというルートも検討したが、次回の楽しみとした。
夏用登山道具から秋用登山道具へ
見出しに困ったが、いわゆる夏山用の登山装備から若干変更を図った。一つはマット、もう一つはシュラフ、それ以外にもグローブなどの装備を入れ替えた。
マットにはニーモ「テンサー20S」からエクスペド「ダウンマットライト5S」へ。
シュラフはナンガスウェルバッグ280からナンガダウンバッグ350へ。
シュラフについては個人差があり季節や天候によって「これ」という決め手はないものの、マットについては秋冬、雪の時期にはエクスペドのダウンマット一択で過ごしている。雪の上でも冷気を感じることがなく、その分シュラフのグレードを一つ下げてもいいので結果として軽量化に役立っているように感じている。
総重量は10kg未満に抑えることが出来たと思う。
初日、雨が激しく降りしきる中での登山スタート
一週間ぐらい前から天気予報を繰り返し気にする。
今回も天候には暗雲が立ち込めていたが、週末にかかるにつれて徐々に好転の傾向が強まっていた。しかし、深夜の沢渡バスターミナルに車を停めた時点では雨は激しく車を打ち付けていた。
沢渡からの始発バスが発車する予定の4時40分頃でも雨脚は弱まる気配を見せず、出発を後らせることに。結局6時台のバスへ乗り込み、7時に上高地入りした時にも雨は降り続いていた。
上高地バスターミナルではいつもと違うことが一つあった。バスターミナルの脇に「日テレ」の中継車が停まっていた。何だろうと思っていたが、下山後に知ったのは「24時間テレビ」でイモトアヤコと義足の江口舞さんが槍ヶ岳へ登るというチャレンジを放送していたそうだ。
7時10分、登山届を提出して上高地バスターミナルを出発。
激しい雨で観光客もまばらな河童橋を渡り、まずは岳沢小屋を目指す。この日、ほとんどの登山者は明神、横尾方面へ向かっていた。
降り続いていた雨によって梓川も濁っていた。
河童橋を渡った所で登山者とすれ違った。「岳沢方面に行かれますか?」と聞かれたので、「はい」と答えると、「雨どうしょう」と少し会話になった。天気図や雨雲レーダ―の様子からすると、9時頃には雨は完全に上がりそうに感じていたのでそのことを伝えると、雨がひどくて岳沢への登りが滝のようになっており戻ってきたとのこと。
岳沢への登りは仮に滝のようになっていても鉄砲水のような心配はそうそうないだろうと思い、そのまま進むことにした。
ホテル白樺荘の前を通り、しばらく梓川沿いの進むと10分ほどで岳沢への登山口に差し掛かる。
滝のようにというまでにはなっていないものの、道はぬかるんでいた。
さあいよいよ登山スタートだ。
ここからはあまり写真がない。雨が酷くカメラを出すことが出来なかったし、少し進んだところから実際に道は滝のようになっていた。
階段状になっている沢沿いの登山道はどこからが登山道でどこからが沢かわからない状態になっている。激しく流れ落ちる濁った水の中に足を入れて出来るだけ素早く慎重に歩を進めた。
上下ともにレインウェアを着込んでいるので浸水はしないし、序盤はゆるやかな登りが続くために案外快適に歩くことが出来た。
途中雨に苦戦しているような若い男の子のグループを2組ほどパスしてモクモクと登る。
20分ほど登った所で雨が上がってきた。鳥の囀りが聞こえてきた。雨は何とかなりそうだ。すぐにレインウェアを脱ぐ。ついでにカメラも出した。
登り始めて30分ほどしたところで目の前に標識が飛び込んできた。「風穴」とある。コースタイムでは1時間20分かかることになっているが、30分で到着した。ルートを間違えていないだろうかとGPSでも確認したが、間違っていない。どうやら滝のような道を嫌い、考えていた以上に急いでいたようだ。
前穂高岳登山道と名付けられた岳沢沿いのこのルートはとても美しい。先ほどの風穴を過ぎた頃から傾斜は徐々にきつくなるものの、等間隔に岳沢小屋までの標識が設置されており、残りの距離がわかるために気分的にも楽に登ることが出来る。
左手には西穂高岳が見える。雨もすっかり上がって緑が輝いて見える。
胸突き八丁を越えればもうあと僅かで岳沢小屋が見えてくるはずだ。
何組かの登山者をパスして登る。
見えた、岳沢小屋だ。
岩壁から流れ始める岳沢を一度渡渉し、しばらく登ると岳沢小屋に到着する。
これより上に水の始まりはない。川の始まり。雄大だ。
午前8時43分、岳沢小屋へ到着。標高2170m。
上高地から1時間半で登ってこれた。この先が長いので、これは嬉しい。雨のおかげか。
ここは以前「岳沢ヒュッテ」があったが雪崩で全壊。その後一度は廃業に追い込まれたが、7年前に槍ヶ岳観光によって小規模ながら小屋が再開されている。テン場もあるが沢沿いのとても狭い場所に点々と設営可能場所があるという感じで、小屋も完全予約制となっている。
新しいこともあってかとても綺麗で居心地が良さそうな小屋だ。ちょうど少し陽がさして来たこともあり明るい雰囲気の小屋という印象が残っている。紅葉も素晴らしいらしいので、いつか紅葉の時期にじっくりと腰を据えて穂高の山を眺めてみたい。
荷物を下ろし、持ってきたオニギリを食べる。いよいよここからが日本アルプス屈指の急登と呼ばれる重太郎新道が待っている。しっかり腹ごしらえをして挑もう。
前穂高岳へ重太郎新道を登る
重太郎新道はこの日のメインメニューの一つ。
鎖とハシゴが次々と現れる急登となる。故今田重太郎氏が切り開いた道となる。今田重太郎と言えば現在の穂高岳山荘の礎を築いた人物になる。
ここからはヘルメットを被っての登山となる。標高差900mほど、コースタイムは3時間。
序盤は岳沢小屋のテン場をゆるやかに登っていく。お花畑をジグザグと登りながら徐々に標高を上げていくが、広々した景観が広がり辛さは感じない。
さあハシゴが登場だ。
登り切ったところ。写真右手奥に岳沢小屋が見える。
長めのハシゴだが特に怖さは感じない。個人的にはハシゴは好きだ。一気に標高が稼げる。
ここはカモシカの立場という地点。確かにカモシカが立っていたら絵になるだろうなと思った。
その後もいくつかの鎖やハシゴを登り、また登る。確かに急登ではあるけれど特に危険個所もなくモクモクと登る。
ふと振り返ると焼岳、乗鞍。帝国ホテルや大正池も見える。上高地からずっと上がってきたんだと思う。
右手方面には明神岳だろうか?険しい岩肌に緑がとても美しい。
登り始めて1時間半以上、ようやく前穂の頂が見えてきた。
岳沢パノラマ、雷鳥広場と呼ばれる岩場の連続地帯に入ってきた。ここはとても登りやすい。急登は急登だけれども足場もルートもしっかりしている。
何と言っても目の前に見事な頂が聳え立っていることが気持ちを奮起させる。
先行するグループが見えてきた。
岩場は楽しい。落石さえ起きなければ。少し距離を空けて歩く。
とても静かな歩き。こんな日に歩けて幸せだと思う。
振り返ると、いま歩いてきた岩場を戻っていく登山者が見えた。しばらく立ち止まって景色を眺めている。あの人も同じことを考えているんだろうかと思う。きっとそうだろうな。
若干長めの鎖をつかみながら、滑りやすい岩を登っていくと紀美子平はもう目の前だ。
午前11時23分、紀美子平に到着。上高地から4時間10分で到達。若干疲れてきたがまだ大丈夫。
紀美子平の由来はもちろん人名だ。当時5歳のお子さんの名前となる。先の今田重太郎氏がこのルートを開拓している最中に、連れてきた娘さんをここで遊ばせていたことから名付けられたらしい。5歳の娘さんの遊び場だったというのがまた凄い逸話だが、いったいどんな遊びをしたんだろう。もちろん縄跳びやボール遊びは出来そうにないけれど。
紀美子平にはいくつかのグループや個人が休憩していた。多くは下山組だ。
前穂高岳へはここに荷物をデポして往復する。
その前にちょっと栄養補給をしよう。荷物を下ろして買っておいたパンを食べる。風もなく気持ちがいい。ちょうどお昼時、このままここで眠りたくなる。
標高3090m、前穂高岳山頂へ
少し休憩している間に青空がどんどん広がってきた。さあ前穂高岳へ。
ちなみに日本11位の高峰となる。
前穂への登りは岩場を左手に巻きながら登っていくような感じ。ゴツゴツした急な岩登りではるけれど、特に危険な場所はない。ただ、それなりに高度もあるので、足を踏み外したりするともちろん危険。そんな感じの登りだった。
あっという間に前穂高岳山頂。
12時5分到着。お疲れさまでした。
前穂高岳の山頂は細く広い。そして360度の大絶景が広がっている。
槍ヶ岳もハッキリ見える。
遠くには今日の幕営地予定の穂高岳山荘の赤い屋根も小さく見える。ここから吊尾根を歩いて2時間20分。まだ遠い。
重太郎新道の登りの心地よい疲れと前穂高登頂の喜びが重なってとても嬉しい時間だった。
ヤッター前穂高岳。初顔出しか?WordPress引っ越しに合わせて面倒なのでそのままに。
全然関係のない話だけれど、剱岳で穴が空いてしまったボロボロだったブラックダイヤモンドのクラッググローブを新調した。
このグローブは安いし本当に使いやすい。夏場前になると売り切れ続出なので、今のうちに予備を買っておくのがいいのかもしれないと写真を見ながら思い出した。
先がまだ長いのであまり余韻に浸っている時間もなく、すぐに紀美子平へ。
重太郎新道は登りごたえのあるいいルートだと思う。次はジャンダルムからの周回で下りに使ってみたい。
そんなことを考えながら、奥穂高岳への吊尾根を目指すことになる。
続く。
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